2013年5月1日水曜日

エドアルド・ガレアーノ「ことば、人間、さらには自然そのものの生と死」


ネーション・インスティチュート・プロジェクト
A project of
 The Nation Institute
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凡例:[原文書き込み](訳文書き込み)
トムグラム:
エドアルド・ガレアーノ、「ワトソン君、それほど初歩的なことでない」
Tomgram: Eduardo Galeano, Not So Elementary, My Dear Watson
投稿: Eduardo Galeano 20134308:14am
トムディスパッチTwitter ID:
 @TomDispatch.
読者のための覚書:まず、打ち明け話。エドアルド・ガレアーノの新しい本を読むたびに、ぼくは妻が頭にくるようなことをしでかす。ぼく自身、どうしようもない。5分ごとにそばに寄って「ねえ、聞いて」といってしまうのだ。そして、彼女に感動的でみごとなくだりを読み聞かせては消えてしまうが、また5分後には「ねえ、聞いて」といいながら現れるだけのことである。当代大作家のひとりの新刊書が世にでるのは、事件である。今日は、彼の最新著作、Children of the Days: A Calendar of Human History(仮題『日々の子どもたち――人類史カレンダー』)の出版日にあたる。これは、選びぬかれた366編のエピソードで構成される彼の人類史の書、Mirrorsの続編にあたる。読者のみなさんは、わたしたちのこの小さな混雑した惑星のうえの最も人間的で美しいもの、それに加えて、最も強欲で搾取的なものに焦点をあてた、365日のそれぞれ1日を1ページに収めた彼の最新刊をわたしたちの時代の祈祷書だとお考えになるかもしれない。みなさんがどのような境遇におられようとも、全員ができごとを祝し、同書を購入なさることをわたしは熱望したい。(打ち明け話:昔むかし、わたしが前生でガレアーノの米国編集者であり、“Memory of Fire”三部作がわたしたちの北米景観のなかに潜入し、立ち去りを拒んだとき、あれがわたしの出版人生で最高の瞬間のひとつだった)しかしながら、今日、わたしがこれまでに出会ったなかで無比最高のカリスマ性がある(そして謙虚な)人物が初めてトムディスパッチに登場したので、わたしにとって二重の祝である。わたしは彼の新刊書から「6日間」を選んだが、これは全巻に詰まった1年分の喜びのほんの味見である。下記の文は、彼独特の文体を模した、ささやかな紹介文である。トム]
(サイト主宰者、トム・エンゲルハートによるまえがき)
10代のころ、あなたは作家になることを夢見、いまでも夢見ておられるだろうと思う。幼いころ、あなたは漫画家で、それからずっと、わたしたちの世界の誇大ぶりに気づいてきた。あなたは新聞の編集長で、磨いてきた腕で――最初の神話から昨夜遅くのできごとまで――わたしたちの歴史の編集をやめることがなかった。あなたは獄に収監され、その結果、どのようにわたしたちがこの惑星とその住民を獄に収監するようになったのかについて理解するようになった。あなたは流浪の身になったので、わたしたちの根こそぎにされた世界の多くの人たちが母国で感じることがなく、あるいは感じるのを許されていないありさまを把握するにいたった。 
あなたはこの惑星をとても広く旅したので、あなたの友人がかつてあなたに語ってくれたように、「道は歩くことによって造られるというが、それがほんとうなら、あなたは公共事業のコミッショナーであるに違いない」。そうした旅の途上、あなたは国々を分かつ(それに、こころのありようを分かつ)境界が信頼するに足りないと気づき、作家としてのあなたは分野の違いに脅えることはなく、あるいはジャーナリズム、歴史、学問、それにフィクションの、つまり、ほかの世界を自分たちが住んでいるかのように思えるほどの強烈さで再現することのスリルに満ちた感覚を融合することをためらわなくなる。
あなたの若き日の――サッカー選手になる――夢が実現していたならば、これらのどれひとつとして実現していなかっただろう。サッカーに替えて、あなたは書物のなかで「立派なゲーム」をやってきた。あなたは、北と南が「平等な立場」で出会う唯一の場所――「双方のチームが南半分と北半分でプレイするように」、赤道がまっぷたつに分断しているアマゾン河口のサッカー場――を記述することによって、わたしたちの不公正で不平等な世界を説明しさえした。
あなたはラテンアメリカでとてもよく知られているので、ベネズエラ大統領のヒューゴ・チャベスがバラク・オバマ大統領と会見したとき、チャベスの選んだ唯一のギフトが、あなたの初期著作“Open Veins of Latin America”であり、そのサブタイトル“five centuries of the pillage of a continent”(大陸略奪の5世紀)が、出版後42年たっても同書が当面の問題にかかわっているのはなぜかを説明している。
あなたの作品は28の言語に翻訳され、あなたがこの惑星上のことばの喪失を悼む理由の一端が、間違いなくこれである。あなたには人間を見つける方法がある。あなたの最初の英語翻訳者、セドリック・ベルフレイジは、英国の元ジャーナリストであり、ハリウッドでビーヴァーブルック紙のためにサイレント映画を担当し、米国で左翼紙ナショナル・ガーディアン創設に協力し、マッカーシー時代に国外追放となり、メキシコで終焉を迎えた。あなたは、よきにつけ悪しきにつけ、これまでの数千年間のいやしくも一廉の人物はだれでも知っているようだったし、環境やボスたちが不可能としなければ、一廉の人物であったであろう人たちを知っているようだった。ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス(Sor Juana Inés de la Cruz)が「新スペイン」の修道院に初めて入門し、女性には禁じられていた「神のお創りになったものごと」の研究をし、異端尋問所に追及され、文芸の放棄を強いられ、「沈黙を選び、あるいは沈黙を受け入れ、かくてアメリカが最良の詩人を失った」とき、あなたは彼女を訪問しにわたしたちを連れていってくれた。 
ベン・フランクリンが凧をあげ、「天上の火と雷鳴は、神の怒りではなく、大気中の電気の表れである」ことを発見し、その一方、「才能と意志力において彼に似た」姉のジェーンは2年ごとに子どもを産み、子育てに呻吟して、その人生は歴史に忘れられたが、あなたには忘れられなかったとき、あなたはベンとともにいた。ヨシフ・スターリンの息子、ヤコフが自殺を企てたとき、父親が病院のベッドサイドで「自殺すら、うまくできんのか」とヤコフにいったとき、あなたはヤコフとともにいた。 
あなたはわたしたちの戦乱に巻き込まれた世界を何らかの形で取りあげ、ほかのだれにもできない流儀で多くの物語を語る。そして、おそらく人びとはあなたにストーリーテラーを感じとるので、定期的に――わたし自身もそうだが――あなたの元にやってきて、腹のうちを吐きだすのだ。だから、もう1冊のあなたの本、“Children of the Days: A Calendar of Human History 、”はわたしたちの時代の日ごとの祈祷書であり、元気の素なのだ。マヤ民族の血筋を引き継ぎ、世評によれば「山の洞穴に」火を隠したカッチケル族のように、いやあなたの場合、“Open Veins”から“Children of the Days”まで、本のなかで永久に明るく燃える火を神から盗んだことで、あなたを祝すべきである。トム
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ことば、人間、さらには自然そのものの生と死
歩く図書館と「ことば」という名の神からシャーロック・ホームズのいわなかったことまで

――エドアルド・ガレアーノ(Eduardo Galeano
[以下の断章は、エドアルド・ガレアーノの最新刊“Children of the Days: A Calendar of Human History”からの抄録]
脚の記憶
13日)
紀元前47年の第3日、古代に最も名高い図書館が燃え落ちた。
ユリウス・カエサルがクレオパトラの弟(プトレマイオス13世)に対して仕掛けた戦闘の一環で、ローマ歩兵軍団がエジプトに侵入したあと、火がアレクサンドリアの図書館にあった何万、何十万ものパピルスの巻物の大半を喰らい尽くしたのである。
2千年紀たって、想像上の敵に対するジョージ・W・ブッシュの十字軍戦争で、アメリカの軍団がイラクを侵略したあと、バグダードの図書館にあった何万、何十万もの書物が灰燼に帰した。
人類の歴史を通して、ただひとりの難民が戦争と火災から書物を守った。10世紀末、ペルシャの首相、アブドル・カセム・イスマエルの頭にアイデアが閃いた、歩く図書館である。
この思慮深く疲れしらずの旅人は、この図書館を携行した。ラクダ400頭に積載した117000冊の書籍は、長さ1マイルのキャラバンを形成した。ラクダたちは目録を兼ねていた。運ぶ書籍の標題にもとづいて隊列が編成され、一群ごとにペルシャ語アルファベット32文字のうち一字がそれぞれ振られていたのだ。
文明開化の母
123日)
1901年、ヴィクトリア女王が最後の息を引き取った翌日、厳粛な葬儀がロンドンではじまった。
準備は、たやすい仕事でなかった。一時代に名を冠し、亡夫追憶のために40年のあいだ喪服で通して、女の禁欲のスタンダードを定めた女王となれば、壮大な告別も当然のこと。
大英帝国のシンボル、19世紀の貴婦人にして未亡人、ヴィクトリアは、中国に阿片を押しつけ、自国に貞節を課した。
彼女の帝国で着席すれば、善良なマナーを教える作品が読まれることが求められた。1863年刊、ゴフ夫人著『エチケットの本』は時代の社会的な掟のいくつかを確立した。たとえば、本棚で男の著作と女の著作の目に余る接近を避けなければならない。
ロバート・ブロウニングとエリザベス・バレット・ブロウニングの例のように、著者らが結婚している場合のみ、著書が並んでいても許される。
世界は縮む
221日)
今日は、「国際母国語の日」。
2週間ごとに、1言語が死滅している。
世界は、人間のことばを失うごとに、動植物の多様性を失うのと正しく同じように縮小する。
1974年、アンジェラ・ロイジが死去した。彼女は、はるかな世界の果てティエラ・デル・フエゴ出身、最後のオナ族インディアンのひとりである。彼女は、同族の言語を話す最後のひとりだった。
アンジェラを措いて、だれも憶えていない、あのことばで、彼女は、だれのためではなく、みずからに歌いかけた――
去りし人たちの
踏み跡をわたしは歩く。
わたしは失われた。
時が過ぎゆくあいだ、オナ族はいくつかの神々を礼拝した。至高神はペマウルクと呼ばれた。
ペマウルクの意味は、「ことば」。
評判はナンセンス
423日)
「世界本の日」の今日、文芸の歴史は終わりのないパラドックスであることを思い出しても悪くないだろう。
バイブルで最も有名なシーンはどれだろう? アダムとイブがりんごをかじる話。それではない。
プラトンは彼の最も有名な一文「死者だけが戦争の終わりを見た」を書かなかった。
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャは、「サンチョ、犬に吠えさせておけ。われらが間違いなく跡を追っているしるしなのだ」といわなかった。
ヴォルテールの最も知られた「君のいわねばならぬことに同意しないが、死を賭して君がいう権利を守る」というくだりは、本人によっていわれも書かれもしなかった。
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルは、「友よ、なべての理論は灰色だが、緑色は生命の樹なのだ」と書かなかった。
シャーロック・ホームズは、「ワトソン君、初歩的なことだよ」といわなかった。
レーニンは、どの本にもパンフレットにも「目的は手段を正当化する」と書かなかった。”
ベルトルト・ブレヒトは、最も頻繁に引用される「最初、彼らは共産主義者を探しにきた/わたしは共産主義者でなかったので、黙っていた…」という詩句の作者でなかった。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスも、最も知られる「人生をもう一度生きなおせるなら/もっと間違いをしようとするだろう…」という詩句の作者でなかった。
出版の咎
424日)
2004年、グアテマラ政府は一度だけ刑事免責の伝統を破って、ミルナ・マックが同国大統領の命令によって殺害されたと公式に認めた。
ミルナは禁じられた調査を実施していた。脅迫を受けていたにもかかわらず、彼女はジャングルや山深く分け入り、自国内をさまよう流刑人たち、軍による虐殺を生き残った先住民たちを探していた。彼女は彼らのことばを集めていた。
1989年、社会科学者の学界で、アメリカから来た人類学者が、大学が常に生産性を求めるプレッシャーについて、「わたしの国では、出版しなければ、消えてしまいます」とこぼした。
ミルナは、「わたしの国では、出版すれば、消えてしまいます」と返した。
彼女は出版した。
彼女は刺殺された。
自然は無言ならず
65日)
現実は静物を鮮やかに描きだす。
災害は天災と呼ばれ、自然が処刑者であり、犠牲者ではないかのようだ。
その一方、気候は調子が狂い、わたしたちもそうだ。
今日は、世界環境デー。エクアドルの新しい憲法を祝うには良き日であり、2008年に史上初めて、その憲法は自然を権利の主体と認定したのである。
自然がまるで人間であるかのように、権利を保有するという考え、これは奇妙に思える。だが、アメリカでは大企業が人権を享受することが完全に正常であるようだ。1886年の最高裁決定からこのかた、大企業には人権がある。
自然が銀行であったなら、大企業はすでに自然を救っていただろう。
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エドアルド・ガレアーノ(Eduardo Galeano)は、ラテンアメリカで最も著名な作家のひとり。著書に“Open Veins of Latin America,”“Memory of Fire”三部作、そのほか多数。彼の最新著書“Children of the Days: A Calendar of Human History”(Nation Books)は英訳版が刊行されたばかりである。第1Lannan Prize for Cultural FreedomAmerican Book AwardCasa de las Américas Prizeなど、国際賞の受賞歴も豊富。
マーク・フリード(Mark Fried)は、“Children of the Days”など、エドアルド・ガレアーノの本を7冊翻訳。最近、発売されたSevero Sarduyの“Firefly”も翻訳。カナダ、オタワ在住。
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Copyright 2013 Eduardo Galeano
This post is excerpted from Children of the Days: A Calendar of Human History Copyright © 2013 by Eduardo Galeano; translation copyright © 2013 by Mark Fried. Published by Nation Books, A member of the Perseus Group, New York, NY. Originally published in Spanish in 2012 by Siglo XXI Editores, Argentina, and Ediciones Chanchito, Uruguay. By permission of Susan Bergholz Literary Services, New York City, and Lamy, N.M. All rights reserved.
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原文http://www.tomdispatch.com/blog/175694/ 

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